夕ご飯を一緒に 〜イケメン腹黒課長の策略〜
家に入ったら、味噌の香りがした。
「ただいま」
手を洗って、リビングに行くと、太一はテレビをモニターにしてゲームをしていた。
「おかえり」
格闘ゲームだ。対戦中で、目をモニターから離さない。
「煮込みうどん作った」
「ああうん、ありがとう」
返事をしながら部屋に入って服を脱いだら、リビングから声が飛んできた。
「持ってって」
ん?今なんて言った?
「なに?」
「うどん。持ってって。久保田さんに」
……はい?
「連絡してあるから」
急いでフリースのルームウェアを着て、リビングに戻る。
太一の姿勢はさっきと同じ。ゲームの対戦相手だけが変わっていた。
「なんて言ったの?」
「だから、久保田さんにうどん持ってって。もう連絡してあるから。わかったって返事きてるから。僕もう食べ終わったから、お母さんあっちで食べてきてよ」
言い終わった瞬間にやられたらしく、テレビには『Lose』と表示された。
「あー負けた。早く行って、集中できないから。こいつ強いんだよ」
太一は『Continue?』の画面をそのままにして、私を見た。
「久保田さんち、食器とかなにもないみたいだから、丼とか箸とかあそこに置いといたから」
太一が指差したキッチンには、袋が置いてあった。中には、言った通り、丼や箸、レンゲやお玉なんかが入っていた。2人分。
「あっちであっためてから食べてよ」
「え、うん……いや、あのさ、久保田さん体調悪いって」
「だから、連絡してあるって。うどんは食べられるって返事くれたから。早く行ってってば。このボス倒したい」
太一はまたゲームに戻る。
もうこっちは見ずに、指を盛んに動かしている。
土鍋のフタを開けると、味噌煮込みうどんがあった。
豚肉と野菜がたくさん。もう味が染み込んでるみたい。凄くおいしそう。
「じゃあ……行ってきます……」
聞こえてるだろうけど、返事もしない。
太一の背中とゲームのキックの音に、追い立てられるように、家を出た。
なんなの、あれ。
まるで、今日久保田さんと話そうとして話せなかったことを知ってるみたい。
うどん持ってって話して来い、って言われた気がした。
あっ、と思い付く。
美里ちゃんだ。きっと美里ちゃんが、太一に何か伝えたに違いない。
もう……あのラインの情報漏れにはちょっと気を付けておかないと。
でも、体調悪いんだし、話なんてできるかな。
様子を見ながら、駄目ならまた今度にしよう。
次は突然じゃなくて、ちゃんと予定に入れてもらって……。
そんなことを考えながら、階段を上がった。