夕ご飯を一緒に 〜イケメン腹黒課長の策略〜
鍋や食器を持つのを手伝おうとしたら、断られた。
「一緒に家に行くなんて、どんな顔をしたらいいのかわかりません」
「どんなって、普通にしてれば」
「その普通がわからないんです」
顔を赤くして、口をとがらせる。それも可愛い。
「それじゃあ僕は夕ご飯を食べに行けないよ」
「月曜日までには普通を思い出しますから」
「……まあいいけど」
キッチンで帰る用意をしている彼女を抱きしめる。
「あっそうだ、忘れ物」
「え?」
周りを見ようとする彼女にささやく。
「好きだよ」
ピタッ、と彼女の動きが止まった。
そして、みるみる顔が赤くなっていく。
思わず笑ったら、ムッとされてしまった。
「……そういうの、慣れてないからやめてください……」
蚊の鳴くような声で返ってきた。
「やめないよ、可愛いから」
そう言うと、ますます赤くなる。
「ゆでだこみたい」
その赤い頬に軽く口付ける。
ピクッと反応するのも可愛い。
「……もう帰ります」
プイッとそっぽを向かれてしまった。
それも可愛い。
もう大分彼女にやられてる。
それも、心地良い。こんなの初めてだ。
「ごめん、やり過ぎた?」
顔を覗き込んだら、更にそっぽを向く。
そのまま抱き寄せる。
「また来てくれる?」
僕の腕の中で、小さく頷く。
もう、本当に離したくない。
でも時計はもう9時を過ぎてる。太一君は寝る時間だ。
今日は金曜日だから、多少は夜更かししてもいいんだろうけど、時間になると眠くなってしまうと聞いたことがある。
「……じゃあ帰ります」
一度、ぎゅっと僕の背中を抱いて、彼女が離れた。
急に寒くなって、淋しさを感じる。
それは、素直に表に出ていたらしい。
彼女が苦笑する。
「そんな顔しないでください……また来ますから」
引き止めたいけど、そんなことをしたら彼女が困るだけだ。
「待ってる。でも、その前に僕がそっちに行くよ。月曜日に」
ふふっと彼女は笑う。
「じゃあ、一緒に帰りましょう」
僕が頷くと、笑顔と優しい甘い匂いを残して、彼女は帰って行った。