夕ご飯を一緒に 〜イケメン腹黒課長の策略〜


 土曜日の夕ご飯は、私が作った。

 メニューは、棒餃子、千切りジャガイモの油炒め、トマトとアボカドのサラダ、ほうれん草の白和え、豆腐となめこの味噌汁、ご飯。
 棒餃子は、餃子の皮を2枚つなげてクルッと包むだけの簡単バージョン。
 昔、太一が餃子をうまく包めなくて拗ねてしまった時に、以前テレビで見たこの方法で作ったものだ。それ以来、我が家の餃子はこれが定番。でも、普段は冷食餃子の方が出番は多いんだけど。

 いつもよりも品数が多い食卓に、太一は「すげー気合い」とぼそっと呟いた。
 私は苦笑するしかない。
 確かに張り切った。
 それに、作ってる最中も昨日のことを思い出してしまって、じたばたして、手が勝手に動いたせいもある。
 恥ずかしくなって、どれかを引っ込めようかと思っていた時に久保田さんが来て、タイミングを失ってしまった。
 「おいしそう」とにこにこしている久保田さんを見たら、まあいっか、と思ってそのままにした。

 また3人で手を合わせて、いただきますができて、凄く嬉しい。
 久保田さんもにこにこだし、太一も無表情を装っているけど、嬉しそうなのが見え隠れしてる。

 まだ失くしてしまう恐怖はある。
 でも、そんなの吹き飛ぶくらい、嬉しい。
 だから、まあいっか、と思った。



「あれ、これ久保田さんのじゃない?」
 太一が何かを拾い上げた。
 スマホだ。確かに久保田さんのだ。
 久保田さんは、ついさっき帰ったばかり。
「届けてくるよ」
 そう言って、太一からスマホを受け取る。
「お風呂入っててもいい?」
「どうぞ」
「その後、テレビでゲームしてもいい?」
「急がないでちゃんと洗うんならいいけど。届けるだけだし、すぐ帰ってくるよ」
「わかった」
 私はコートを羽織って、脱衣所にいる太一に声をかける。
「行ってくるから」
「うん」
「ちゃんとあったまるんだよ」
「わかった」
「ちゃんと洗ってね」
「もういいから早く行きなよ」
 呆れた声に送り出された。


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