夕ご飯を一緒に 〜イケメン腹黒課長の策略〜
「で?」
月曜日の昼休み。
空いていた会議室で、美里ちゃんは不機嫌そうに言う。
「あの、ですね……これを」
私は、バッグから巾着袋を2つ出して、1つをすすすと差し出した。
「……これは?」
「お納めくださいませ……」
美里ちゃんが巾着袋を開けて、目を輝かせる。
「お弁当?」
「えーこの度は、大変ご心配をおかけ致しました。これはそのお詫びとお礼を兼ねて、私が作りました」
美里ちゃんが、ぱっと笑顔になる。
「うむ、くるしゅうないぞ」
良かった。機嫌は直ったみたい。
お弁当箱を開けて、にこにこしている。
「おいしそう」
お弁当のメニューは、餃子ミルフィーユ、ほうれん草の卵とじ、ポテトサラダ、ミニトマト、ご飯。
餃子ミルフィーユは、土曜日の餃子を作る時についでに作って冷凍しておいた。ニンニク抜きだ。
ぱくぱく食べる美里ちゃん。私も同じお弁当を食べ始める。
「で?」
美里ちゃんがもぐもぐしながら言う。
「太一君が口止めされたから報告できないって言ってたけど」
「あの、ですね……」
ああ、どう報告するかまとめきれていないのに。
自然に目が伏せがちになる。
「久保田さんが、ウチに来て夕ご飯食べるのが、平日だけから休日も、毎日来ることになりました……」
そう言って、美里ちゃんを見る。美里ちゃんの目が点になっていた。
「ん?」
怪訝そうな表情。眉間にシワが寄っている。
そうだよね。私も太一に言われた時は、なにそれって思ったもん。
「あのつまり、そのように関係が発展したということで、えーと、私の気持ちをちゃんと話したら、受け入れてもらえたので……」
ああ、と、美里ちゃんは頷く。
「歩実ちゃんは、怖くなくなった?」
「正直言うと、まだ怖いけど……でも、3人でご飯食べてたら、それが嬉しくて、怖いのはどっかに行っちゃった。だから、大丈夫だと思う」
「そっか」
美里ちゃんは、頷いて、餃子ミルフィーユを口に入れた。
「美里ちゃん、ありがとね」
私がそう言うと、もぐもぐしていた口を止める。
「美里ちゃんが背中押してくれたから、久保田さんとちゃんと話せた。だから、ありがとう」
頭を下げる。
目が合ったら、美里ちゃんは優しく笑った。
「あーあ、あいつになんて、歩実ちゃんがもったいないなあ」
「そんなことない。逆でしょう」
「いーや、歩実ちゃんの方がもったいない。こんなにおいしいお弁当があいつのものになるなんて」
「美里ちゃんにも作るから」
「……いいの?」
「時々ね」
嬉しそうに美里ちゃんは笑った。
私も、嬉しくて笑った。
心強い友達。
いつまでも、大切にしたい。