夕ご飯を一緒に 〜イケメン腹黒課長の策略〜


 料理は、作ったものも買ってきたものも全部おいしくて、弥生さんはもちろん私達も大満足だった。
 弥生さんの昔話は、真理子先生に始まり、太一が赤ちゃんの時からつい最近の話まで広がった。太一は自分のことを話されるのがくすぐったいようで、微妙な笑顔を浮かべていた。圭さんは興味深そうに、弥生さんからいろんな話を引き出す。おかげで話に花が咲き、時間はあっという間に過ぎていった。

 そして、壮行会が終わりに近付いた頃、太一が弥生さんにプレゼントを渡した。
 膝にも肩にもかけられるストール。落ち着いた、明るいベージュの、柔らかい生地。太一が選んだものだ。

 肩にかけて、鏡を見てみた弥生さんは、本当に嬉しそうに笑った。
「顔色まで変わって見えるわね。どう、たいちゃん、若返った?」
「えっ」
 振り向きざまに聞かれた太一は、戸惑って私に助けを求める視線を送る。
 私は吹き出したいのを堪えた。
「弥生さんは元から若いです」
「あら歩実ちゃん、なんにも出ないわよ」
「いいですよ、真実ですから」
 あはは、と弥生さんは笑った。
「じゃあ、これも一緒に記念写真撮りたいわ」
「僕が撮りますよ」
 圭さんが率先して動いてくれた。

 弥生さんを真ん中に並ぶ。そして気が付いた。
 弥生さんよりも少し小さかった太一が、弥生さんを追い越している。
「あらったいちゃん、背伸びてる」
「えっ」
 本人も今気付いたらしく、窓に映ったのを見て驚いている。
「ほんとだ」
「大きくなったわねえ……」
 感慨深く、弥生さんは呟いた。
「あの可愛かった赤ちゃんが。こんなに」
 太一は苦笑している。言ったのが私なら怒るくせに。
「まだまだ大きくなるから、楽しみにしててよ」
 発言まで成長してる。
 弥生さんは涙ぐんだ。
「そうね。楽しみにしてる」
 みんな、わかってる。
 もしかしたら、もう会えないかもしれない。
 それでも、約束する。
 また会いたいから。
 会えるかもしれないから。



「お幸せにね。みんなで、よ」
 玄関のドアの前で、弥生さんはそう言った。
 家まで送ると言ったけど、悲しくなるからと断られた。
「ばあちゃんも、元気でね」
 太一はぎこちない笑みで、泣くのを我慢してる。
 私も、泣くのを我慢して、笑った。
「連絡待ってます。こちらからも、写真送りますから」
 最後に、握手した。
 ハグよりもやる気が出そうよね、という弥生さんの希望だった。
「本当に、ありがとうございました」

 もうなんて言ったらいいかわからなかった。
 言葉になんてできない。
 弥生さんの手は、小さくて、柔らかくて、少しだけ冷たくて。そして、力強かった。

「圭さん、2人をよろしく」
 弥生さんにそう言われて、圭さんは頷いた。
「ご安心ください」
「真理子ちゃんにもよろしく伝えてね」
「はい。ありがとうございます」
 弥生さんは、満足気に頷いた。
「じゃあ、歩実ちゃん、たいちゃん、またね」
 とびきり素敵な笑顔で、弥生さんは手を振って帰って行った。




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