夕ご飯を一緒に 〜イケメン腹黒課長の策略〜
「歩実ちゃん、見て見て〜」
月曜日の昼休み、ミーティングスペースで美里ちゃんがスマホを出してきた。
画面には、赤ちゃんの写真が出ている。
「可愛い!もしかして須藤家の?」
「そう!ひさくんだよ。千波先輩に送ってもらったの〜」
ぱちっと目を開けた赤ちゃんは、黄色いタオルにくるまれていた。
自然に笑みがこぼれる。なにはなくとも赤ちゃんは可愛い。
「隆芳くんに似てる。あ、てことは須藤さんに似てるのか」
「でも、ひさくんの方が、千波先輩の要素が多い気がする」
「そうね、なんとなく」
「ねえ歩実ちゃん、太一君の赤ちゃんの時の写真持ってないの?」
美里ちゃんに聞かれて、私はにっと笑った。
「持ってる」
「見せて見せて!」
スマホに入っている太一の写真。
赤ちゃんの頃のフォルダを開く。
ああ、可愛い。泣いたり笑ったり怒ったり。
今の仏頂面も可愛いけど、やっぱり赤ちゃんの時は特別な可愛さがある。
「うわあ……可愛い〜」
美里ちゃんの目がハートになってる。
「でしょう〜」
我が子がほめられるのは、やっぱり嬉しい。
「うわあ、ほんと可愛いな」
後ろから声がして、振り返る。
小田島さんだった。
「ごめんなさい、見えちゃいました」
「いえ、大丈夫です」
頭を下げ合う。
「いやほんと可愛いですね。ウチの姪っ子も可愛かったけど、この子は身内じゃなくても可愛い」
「ありがとうございます」
ついつい顔が笑ってしまう。身内だとね、もっと可愛いんですよ、とはさすがに言えないけど。
「今いくつでしたっけ」
「10歳です。今はこうなってます」
最近の写真を見せると、小田島さんは『おお』と小さくうなった。
「イケメンは小学生でもイケメンなんだなあ」
「太一君は、顔だけじゃなくて中身もイケてますよ」
「へえー、中村は会ったことあるのか?」
「あります。優しいんですよ〜。料理もうまいし、ゲームもうまいし、将来有望株です」
自慢気に話す美里ちゃん。そんなにほめられて、母としては嬉しい限りです。
1人で照れていたら、小田島さんが微笑んだ。
「そんな有望株のママに仕事です」
「え?」
「メール、送っといたんでよろしくお願いします」
「はい、わかりました」
元気に返事をすると、小田島さんがぷっと吹き出した。
「すみません、あっちもこっちも調子良さそうだなと思って」
きっと圭さんのことを言っているんだろう。
小田島さんと西谷さんには、圭さんと付き合うことになってすぐに、2人でお礼と報告をした。
小田島さんはニイッと笑って、西谷さんはにこにこ笑顔で、2人共祝福してくれた。
「久保田なんて、お肌つやつやで眩しくて。からかうつもりで『うらやましいな』って言ったら『そうでしょう?』って満面の笑みで当てられました」
ニカッと笑う小田島さん。
私は恥ずかしくなって顔を伏せた。ほっぺたが熱い。
もう圭さんは……後で言っておかないと。
「あの、なんか、すみません」
「いやあ、なんかデジャブだなあ。幸せな2人と悔しそうな中村」
小田島さんがニヤニヤして言う。
私の隣で『ピキッ』と音が聞こえた気がする。
「小田島さん、雪山に埋められたいんですね?」
笑顔の端がひび割れている美里ちゃん。怖い。
「なんで雪山?」
「寒いの嫌いでしょう?凍えながらこの世の終わりをご覧ください」
「それは勘弁してほしいから戻る。じゃあ小平さん、メール見て、なんかわかんなかったら連絡ください」
「はい、わざわざありがとうございました」
小田島さんは笑いながら去っていく。西谷さんのところに行って打ち合わせをするらしい。
「小田島さん寒いの嫌いなんだ」
そう言ったら、真顔に戻った美里ちゃんが首を傾げた。
「多分違うと思う。テキトーに言った」
「あれ、そうなの?」
もし本当なら、この前の屋上は結構寒かったから申し訳ないと思ったんだけど。
「イヤミ言われたから言い返したかったの」
「……あはは、はは……」
力無く笑って返した。
『幸せな2人と悔しそうな中村』
ちょっとだけ胸がざわついた。