朝戸風に、きらきら 4/4 番外編追加
2人用のダイニングテーブルには、白い大きめの皿が2つ、薄い藍色のランチョンマットの上にそれぞれ並べられている。
6枚切りの食パンの上にはマーマレードのジャム、ベビーリーフに気持ち程度添えられたツナ、黄身が少し固そうな目玉焼き、薄く焦げたウインナー。
だけどバランスよく盛り付けられていて、洋食プレートとしては、きちんと成立している。
「…依織、料理上達したね。」
「お前本気で言ってんの?
どこがだよ、大体焼いて盛り付けただけだろうが。」
「まあそうだけど。
料理は雰囲気大事だよ、
あとはウインナーをタコに出来たら完璧。」
「それ無言でやって出してくる男、怖いだろ。」
「そうかなあ。」
椅子に腰掛けつつぼやけば、顔を顰めながら、両手に持ったマグカップの一方をテーブル越しに差し出された。
それを手にした瞬間、ふわ、と紅茶の芳醇な香りが鼻腔を擽って、朝食と相まって朝の匂いを創り出す。
「……依織。」
「なに。」
「何でもない。」
「…何なんだよ。」
「呼びたくなっただけ。」
ふざけた私の答えに、溜息混じりに「あっそ」と呟いた男は、用意した朝食を特に食べ始めようとはせず、じっとこちらを見つめていた。
「え、そんな見られたら穴あきそう。」
「…食べ終わったらすぐ、仕事渡すから。」
「鬼じゃん。」
「こんな優しい上司いるか。」
“本当に、そうだね。“
そう正直に答えたら、私はもう泣き出してしまえる予感があったから、曖昧に口角を上に引っ張って、誤魔化すようにカトラリーボックスの中から、フォークを取り出した。
さほど集中して観ないくせに、いつも付いている朝の情報番組では、聞き取りやすい女性の声が今日の天気を予報して伝えてきている。
あまりに穏やかで、
何の障壁も訪れることの無い静かな日常。
此処はやっぱり、目が眩むほどに優しい箱庭だ。