朝戸風に、きらきら 4/4 番外編追加

◻︎



"事務所は此処な。"

私に会いにきた那津さんは、別れる直前、パン屋の前でそう言って地図のメモを渡してきた。



そして次の日の、今日。

その紙を握りしめて、反対の手にはいつも持参していた朝ごはんの入ったバッグを持って、私はとあるビルの前に立っている。

元々、休みの日に作業する場所として借りていた小さなアートスタジオを、"とりあえずの事務所"として使うことにしたらしい。


背はそこまで高くない、こじんまりとしたビルの中に入って階段を2階分上がって。
なんの躊躇いもなく渡された合鍵を、教えられた部屋のドアの鍵穴にさせば、呆気なく開いた。


「………、」

中も、どちらかというとマンションのような作りに近い。
コンクリート打ちっぱなしの壁は、あまりに少ない家具と相まってより殺風景な空間に見えるけど、玄関を入ってすぐの小さなキッチンには、ポットやマグカップが置いてあって、辛うじて生活感が垣間見える。


ダイニング兼リビングのスペースに足を踏み入れても、人の姿は無い。
  

「…那津さん?」

夜通し作業してるから、勝手にスタジオに来いと言われていた。
でも、その男の姿は見当たらない。


キョロキョロと視線を動かすと、
すぐ隣に扉の閉まった部屋を見つけた。


あの会議室のように、
ここに篭って仕事をして居るのだろうか。


ドアの前に立って、ノックをしようと手を上げる。

"おはようございます"

そう、何でもない、ずっと私があの男にかけてきた
言葉をいつものように紡ごうとした瞬間だった。


____"青砥!!

お前、どういうことだ!?"



「_____っ、」


フラッシュバックした声が、身体にびったりと瞬間的に纏わりついた。


なんで。
なんで、こんな時に思い出すの。


途端に上手く酸素を取り込めなくなって、浅い呼吸を必死に繰り返す。

同時に、しっかりと傷を自覚させるように胸がズキンと音を立てた。



ずるずると崩れるようにその場に座り込んでも、
痛む胸が収まることは無い。



視線を左側にずらせば、窓から部屋に差し込む柔らかい光がフローリングを照らしていた。
太陽は、いつも通りの日差しを降り注ぐ。


それを味方にして、あの人に明るく朝を
伝えられる自分で、居たいのに。



____どうして私は、こんなに弱いのだろう。





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