朝戸風に、きらきら 4/4 番外編追加
自分の弱さを自覚して、じわっと瞳に集まる熱に腕を押し付けて無理矢理に沈めつつ、もう一度、頑張って立ち上がろうとした時。
「…いっ、た!!」
おでこに鈍い痛み走って、ゴン、と間抜けな音も同時に聞こえた。
「……何お前、もう来てたの。」
しゃがんだ状態で見上げたら、半分ほど開いたドアの隙間から、眠気を充分に含んだ綺麗な瞳に見下ろされていた。
「いたい、です。」
デジャヴ過ぎる流れに、急にドアを開けるのはやめて欲しいと非難を込めて訴えた。
だけど。
「……どうした。」
同じようにしゃがむ那津さんは、あの時と違って笑顔は無い。真剣な表情のまま、おでこをさするフリをして顔を隠していた私の手を、掴んで剥いだ。
「…朝ごはん、作ってきました。」
「……」
「いつも、通り、那津さんのこと起こそうと思ったんですが、」
____弱い私は、この人に「おはよう」さえ
上手く言えなくなってしまった。
情けなくて言葉に詰まった私を黙って見ていた男に、「青砥」といつものように優しく声をかけられる。
「無理しなくていい。つか、俺が起こす。」
「え、?」
「休職中、ここに居れば。」
突然の提案に、言葉が浮かばない。
「もう一個の部屋、
一応仮眠できるようにソファベッドもあるしな。」
「…なに、言ってるんですか。」
「俺も流石に事務所構えて社長やるなら、今までみたいな生活習慣、まずいだろ。
朝ちゃんと起きてここに出勤して、朝ごはん作って食う。
そういう規則正しい生活のためのリハビリ。
お前、付き合え。」
決定事項のように告げてくる彼の口調は、否定する余地を挟まないくらい横暴だ。
なのに命令の内容は全然、横暴じゃない。
「そんなの、駄目です。」
「何が。別に叩き起こすのはついでだし、
朝ごはんも、俺が食べたいからそのついで。」
なんか文句あんのか、としゃがんだままに頬杖をついた男は、無茶苦茶な提案を続けている。
これ以上、この人の重荷になるわけには。
ふるふると弱く首を横に振っても、那津さんは引かない。
「そんなこと上司にさせられません。」
「じゃあ朝だけは、上司やめる。」
「は…?」
「それで良い?」
「…無茶苦茶です。」
「ずっと朝ごはん俺に渡してたんだから、
お礼くらい大人しく受けとけ。」
「……那津さん、変です。」
震える声で告げて、しゃがんだままにまた顔を突っ伏したら、不器用に髪をくしゃりと撫でられた。
その温かさを感じたら、こっそり涙は
フローリングに落ちていく。
『共有事項があるときは、
こうして朝ごはんと交換で、私に時間ください。』
朝ごはんは、
私の後ろめたさを隠すためのものだった。
仕事の話を共有したい、それは嘘じゃない。
だけど私、それよりも。
_____毎朝ただ、貴方に会いたかった。
理由を取り繕って、本音を隠した狡い時間。
お礼なんて受ける資格は、無い。