朝戸風に、きらきら 4/4 番外編追加
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「分かりました、
じゃあもう少しアクセントカラーの比率抑えます。
直ぐ修正出します。ええ、大丈夫です。
では後ほど、お送りしますので。」
普段よりも随分と丁寧な声色で最後まで告げた男は、スマホを切った瞬間、体の奥深い場所から連れてきたような溜息を漏らした。
「○社さんの案件ですか?」
「そう。
先方、この間と言ってること真逆なんだけど。
お前代わりに殴ってきて。」
「それは上司命令でしょうか。」
「うん。あ、これパワハラ?」
「ええ、とっても。」
それはまずいな、と何も焦りを感じられないトーンで感想を述べて、パソコンチェアの背もたれに存分に身体を預けた男が、それを半回転させて私の方を見向く。
「青砥、これ後で郵便出しといて。」
「了解しました。」
この男のために持ってきたコーヒーをデスク脇に置いて、差し出された茶封筒を受け取る。
そのまま仕事部屋を出て行こうと翻した私を今度は「その」と名前で呼んだ。
「……何ですか、那津さん。」
「お前は仕事になると、急に頑なになるな。
さっきまで間抜けな顔で、
タコのウインナーとか言ってたくせに。」
「当たり前です、仕事中ですから。」
「別に仕事中でも、
可愛く"依織"って呼んでくれて良いけど?」
「セクハラでしょうか。」
「現代社会における部下との接し方、むず。」
やはりそこまで感情も反省もこもっていない感想を漏らした男は、諦めたように肩をすくめ、マグカップを指差しながら「さんきゅ」と軽く礼を告げた。
「……そんなことでどうするんですか。」
「…何が。」
____これから私以外の人を、雇った時ですよ。
音にするつもりだったそれは、
うまく言葉に出来なかった。
情けなく封筒を握る手にそっと力を込めつつ、「いえ、何でもないです。」と戯けた声色と笑みで誤魔化して、今度こそ仕事部屋を後にした。