わかってるよ、どうせ
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河川敷の桜並木は今朝、電車の車窓から眺めたそれよりも美しい。
見事なまでに、大きく花開いている。
この空間一体が桃色に包まれ、圧倒されていた。
その鮮やかさは、私の少し先を歩く直江くんの後ろ姿も呑み込んでしまいそうな程。
直江くんの背中を見ていると、ふと服部くんの姿が重なる。
しかし、それはただの幻覚で、ここに彼は居ない。
思わず、私の足が止まる。
恐ろしくなってしまったのかもしれない。
――これから、いつまでこんな思いをぶり返し続けるんだろう。
そう思ったら、恐ろしくなった。
私は、早く次に進みたいのに。
「先輩」
気付けば、少し先を歩いていたはずの直江くんが、私の目の前に戻ってきていた。
「さっきから上の空ですね。危ないですよ」
「あ、ごめん」
「悩み事ですか」
「……ううん」
「誤魔化そうとしても、無駄ですよ。俺には直ぐに分かります」
「別に、悩み事なんて無いよ。桜に見惚れちゃって……」
「だから……服部先輩のこと、ですね?」
「――っ」
分かりやすく、動揺してしまった。
正解であることを晒してしまい、非常に恥ずかしい。
「ちが……」
「今、清水さんの隣に居るのが、俺だから……不満、ですか?」