チート級にハイスペックでイケメンな友人が、天使のように可愛い娘ちゃんを溺愛しすぎている件について。
その7.触れるな危険
「ゆーうーちゃーん、あっそびーましょー」
「……」


 愛しの優ちゃんに無視をされた。意図的に。
 いや……ぷにぷにの頬を膨らませて怒っている様子は当然すごく可愛いんだけど、あの、コレ……お兄さんの硝子のハートにひびが入ったよ、コレ。


「ゆーうちゃーん……」
「……やっ! きっちゃんきらい!」


 はい、アウト!今ので完全に硝子のハートは砕け散ったよ!お兄さんのハートは粉々さ!


「真也ぁー!! これ、おま……ねえ、優ちゃんに……嫌い、って……真也ぁー!!」
「そうか、よかったじゃねーか。おめでとう、樹久君」
「ひどい! それでも親友なの?! お兄さん傷ついちゃう!」
「黙れオッサン」


 おおおオッサンじゃねーよ!?俺はまだオッサンじゃねーもん!だってまだぴちぴちの20代後半だもの!……あれ?つまりオッサンか……いやいや、オッサンじゃねーよ!

 地上に降り立ったエンジェルの優ちゃんがなぜこんなにも怒っていて、将来の旦那(になる予定)である俺に「きらい!」なんて言葉を浴びせたか、は……、


「……ウッ……思い出したらまた泣けてきた……真ちゃん、慰めて……」
「誰が真ちゃんだひねり潰すぞ」


 今は真ちゃんに絞められている首よりも心が痛くてたまらない。




***




 話は約30分前に遡る。

 今日は家で仕事をすると言う真也からの電話で「俺の仕事中、優のお守りをしてくれ」と頼まれ、スキップで駐車場に行き車に乗り込みかなり飛ばして追いかけて来たパトカーを振り払い(良い子は真似しちゃダメ!絶対!)真也宅へやって来た。

 そして相変わらず可愛さを爆発させている優ちゃんに抱きつかれ、天にも昇る気持ちになった……までは、よかった。問題はそこからだ。
 俺は優ちゃんと一緒に部屋で遊んでいたわけだが、


「きっちゃん、これあけて?」
「よーし、お兄さんに任せなさい!」


 悩殺モノの上目遣いで開けてくれと差し出してきたのは、先日真也が買ってきたラブキュ……ぶふっ、思い出したらまた笑えて……

 うん。まあその、いわゆる変身用の……なんかこう、携帯?コンパクト?みたいな……プラスチック製で、組み立て式の玩具。それが開かなかったらしい。まあ安物だしな。
 良いところを見せるチャンスだったので、キメ顔で開けようとした瞬間――……、


「あっ」
「ああ……!!」


 勢いあまって壊してしまったわけだ。
 組み立て式の玩具なので再度パーツを組み合わせれば元に戻ったんだが、優ちゃんは『おもちゃを壊した』という事実そのものに対して怒っているらしい。

 それから30分間……呼べば無視をされ、抱きかかえようとした腕に噛みつかれ、頭を撫でようとした手は払いのけられ、俺の心は粉々に砕かれた。
 ああ……優ちゃんの背中に『触れるな注意』のステッカーが見えるよ……。


「なあ、真也……どうしたら許してくれると思う……? やっぱり、ラブ……ぷっ、ラブキュ……ぶふっ、ア、かな……? くくっ!」
「お前が死ねば満面の笑みで許してくれるだろうよ」


 不穏な言葉を吐きながら満面の笑みで首を絞めてくるのはやめてくださいパピー!


「残念ながら俺、今はラブキュアのマスコットキャラと敵キャラのシールしか持ってないんだけど……」
「何で持ってんだよ」
「これで許してくれると思うか?」
「無理だろうな」


 やっぱり雑魚敵のシールじゃ“力”が足りないか。


「……優ちゃーん……謝るからさ? お兄さんと、」
「きっちゃんあっちいって!」
「……」
「きっちゃんさっさと帰れだとさ」
「そこまで言われてねーもん!!」




***




 その後――優ちゃんにはラブキュアの変身セットを買わされ(まああの天使のような笑顔が見られた時点でこの変身セットは実質無料だな、うん。ホント可愛い)、真也にはなぜかタブレット端末を買わされた。


「……なあ真也、俺の財布に冬将軍が到来したんだけど……何でかな?」
「さあ? 不思議だなー?」
「……」


 泣いていいかな?俺。
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