花を愛でる。
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「っ……ちょ、と待ってください!」
私の口を塞いでいた唇が離れた一瞬の間に私がそう抗議すると、社長はあっさりと引き下がってくれた。
「いいよ、嫌なら自分の部屋に戻ってくれても。でもここまで来たのは花だし、俺が勘違いしちゃうのは仕方がないんじゃない?」
「……」
彼が宿泊する部屋は予約時にサイトで見ていた通り広々とした部屋だった。確かに私は自分の意志でここまできて、彼からのキスも一度は受け入れたけれど、でもやはり気がかりなことはいくつかある。
まずは早乙女さんのことだ。彼は昼間に彼女との婚約は反対であることを口にしていた。
しかし彼が反対したくらいでその婚約が破棄されることはあるのだろうか。
どちらも日本でも有名な財閥同士の婚約で、彼一人の独断でそのようなことが決められるわけではない。
つまり彼の気持ちがどうであれ、早乙女さんが彼の婚約者であることは間違いない。
だったら私のこの行動は間違っている。何事もなかったことにして部屋に戻るのが正解だ。
なのに、どうして私はここまで来た?
「(それは……)」
それは……
『私なら、遊馬さんのこと分かってあげられる。彼の気持ちを汲み取ってあげられる。そう思っていたんです。そうしたら遊馬さんはこれ以上家に縛られる必要もないんじゃないかって』
早乙女さんが語っていたこと、彼女にしか分からない社長のこと。
彼女が必死で救おうとした気持ちは社長に突っ撥ねられてしまったけれど、その理由が彼女のいう『年齢』なのならば……
私なら彼の話を、彼が抱えている何かを打ち明けてくれるかもしれないという自惚れを抱いてしまったから。
「わ、私はこういうことをするために来たんじゃないんです」
「……じゃあ何をするために男の部屋に来たの?」
「っ……」
確かに私の行動は軽率だった。最初から話しておくべきだった。
でも今日の社長の心の開きぐらいを見るに、少しは彼の素の部分に触れることが出来るかもしれない。
そう、思ってしまった。