花を愛でる。
「あの後、早乙女さんと少しだけ話しました」
「……」
彼女の名前を出しても彼が反応を示さなかったのは私がその話をすることを分かっていたからかもしれない。
「彼女の行動は勿論褒められるものではないですが、社長の態度も原因じゃないのかと」
「……」
「早乙女さんは社長のことを本当に想っています。その気持ちに向き合ってあげないと流石に彼女が可哀そうだと思います」
社長は私の話を受けて怒るでもなく、困ったように肩をすくめるだけだった。
「花は雛子の味方ってわけだ?」
「私は誰の味方でもありません。ただ今日のようなことがある度に早乙女さんだけが傷付いているような気がして」
「雛子だけが?」
「……」
早乙女さんだけじゃなくて社長も彼女に対して何か思うことがあるのを知っている。
だってこの間も彼は早乙女さんがいないところでは彼女のことを名前で呼ぶ。自分でもその違いに気が付いていないように。
明らかに早乙女さんに対して、分かりやすく距離を置いている。
「もう一度、彼女と話し合った方がいいんじゃないかと」
何故会って間もない早乙女さんの為に私がそんなことをお願いするのか。
それは彼女の流した涙を、きっと社長は知らないから。
彼女を応援したいだとか、そういう気持ちからじゃなくて。
こんな終わり方ではお互いに禍根が残る。
「社長は何故、そんなに彼女を突き放すのですか」
だけど私は遂にそれが初めて彼の神経を逆撫ですることになるとは思っていなかった。