花を愛でる。
花を愛でる。3
花と嵐。
子供の頃から「誰かを支える職に就きたい」という漠然とした夢を抱えていた。
それは不特定多数の誰かではなく、自分と対になるような、そんな大きな存在を。
それは子供の頃から母子家庭で働きながら私の世話をしてくれた母の姿をずっと近くで見ていたからかもしれない。
誰かを支えたい、そんな気持ちのままテレビの特集で秘書の仕事について放送しているのを見て、「これだ」と思った。
私が尊敬できる人で、互いを信頼し合い、そして上を目指して歩ける人。
『初めまして、田崎花さん。今日からよろしくね』
この人は……私にとっての唯一になりえるんだろうか。
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私の前で目を伏せ、資料に目を通す彼を眺める。
暫くして、うんと軽く頷いて顔を上げた。
「大丈夫、確認したよ」
「ありがとうございます。また何か不備があれば言ってください」
明日の会議で使用する予定の資料の確認をしてもらうために彼の元を訪れていた。
ここ最近は仕事で外出する機会も減り、秘書課で資料や書類作成に勤しむことが増えている。
「この後はもう予定入っていないよね」
「はい、明日は朝から社内での定期会議と午後に雑誌の取材が入っています」
「はい、ありがとう」
翌日の予定を告げ、「ではお疲れさまでした」と頭を下げる。
そして何事もなかったように社長室を後にした。
あの大阪の出張から一週間、私と社長の間で仕事以外の会話は一切なくなった。