花を愛でる。
そして当日、私は早乙女さんの付き人である吉川さんの運転する車に揺られている。
早乙女さんの家に近付くにつれ、窓に映る住宅が数少なくなっていく。住宅地を進んでいるということは早乙女さんは社長のようにマンションに住んでいるわけではないということか。
「(これどこまで行くんだろう……)」
もう住宅地というか、森の中に入ってしまっているけれど。一応ここ、都内なんだよね。
「あ、あの……あとどれくらいで着くんでしょうか?」
「もう敷地内には入っていますよ」
「え?」
運転している吉川さんに尋ねて返ってきた答えに再び窓の外に視線を向ける。
敷地って、いつから早乙女さんの家に入っていたんだろうか。
お金持ちの規模の大きさに一人困惑していると、そんな私を察して吉川さんがついでのように口にする。
「早乙女邸もそれなりの広さであることは自負していますが、確か向坂様の本邸はこの五倍の広さだったと記憶しております」
「ごっ……」
「向坂本邸は遊馬様のご家族の他に親戚の方も多く住まわれていると聞いているので」
ということは社長のように実家を出て一人で暮らすのは珍しい方なのか。
一人暮らし歴は長めのように思えるが彼が住んでいる殺風景な部屋のことを思い出して、今まで周りの人に世話をされていた人間が家のものを揃えるような行いをするとも思えない。
やはり、お金持ちの暮らしは全く想像できない。
「着きましたよ」
吉川さんの声に顔を上げて窓の外を覗き込む。目に映ったのはライトで照らされた真っ白な豪邸だった。
想像以上の規模の豪邸に言葉を失ってしまう。私、これからこの建物の中に入るのか。
「(一応いつもよりも重質なスーツを着てきたつもりだけど、どう考えても場違いだな)」