花を愛でる。
高級車が並んでいるガレージに車を停め、後部座席の扉を開けてくれる吉川さんにお礼を言って車を降りる。
そのまま吉川さんの案内の元、屋敷の中に脚を踏み入れた私は映画で見たような洋風の内装に呆気に取られる。
こういう洋館な雰囲気を見ると普段の早乙女さんの服装がああなのも少し納得できる。
廊下を進み、ある広くテーブルが置かれている部屋に案内された私は吉川さんに促されて椅子に腰かける。
「それでは雛子お嬢様をお呼びいたしますので少々お待ちください」
部屋を出ていった吉川さんを目で追うと改めて辺りを見渡し、部屋の装飾を見渡す。
かなり大きな部屋だけど、これが応接室、なのか? 食事を取るためのダイニングのようにも感じるけれど。
「(これがお金持ちの普通なのか……)」
一生慣れないだろうな、この感覚は。
すると扉を叩くノックが聞こえ、慌てて腰を上げると「はい」と返事をする。
扉が開き、その隙間から恐る恐る顔を見せた早乙女さんは普段のゴシック風の服装ではなく、フリルも控えめな白のワンピースを着ていた。
部屋の中に入ってきた彼女の後ろで吉川さんが扉のゆっくりと締める。
「こんばんは、田崎さん。今日は遥々来てくださってありがとうございます」
「い、いえ……」
「そんなにかしこまらないでください。どうぞ座って」
自分の領地にいるからか、彼女からは余裕を感じられた。
指示に従い席に腰を下ろすと、早乙女さんは私の向かいの席に着いた。
「お待たせしてすみません。もう夕食は取られました? よかったら召し上がっていってください」
「え、でもそこまでしてもらうわけには」
「こちらこそわざわざここまで脚を運んでくれたので。一流のシェフに頼んでもう準備を済ませてあります」
社長の話は食事をしながらする話でもないような気がしたが、ここは彼女に流されて様子を見るのが吉かもしれない。
ではお言葉に甘えて、と返事をすると彼女は吉川さんに「持ってきてくれる?」と目線を送った。