花を愛でる。
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ゆっくりと息を落ち着かせ、私は目の前のボタンに指を置く。
そして少し力を入れるとカチッとした感触が指先に伝わった。
暫くして声が聞こえる。
≪……花?≫
インターホン越しに聞いた彼の声は普段よりも低く、優しい声色を失っていた。
≪こんな時間にどうしたの。もう11時回ってるけど≫
「お話ししたいことがあります。会っていただけませんでしょうか」
≪……≫
突然の訪問に面喰らっているのか、社長は少し動揺した様子だった。
モニターからも分かるほど、気迫が入っていたからなのか、「ちょっと待って」と言うと彼は通話を切った。それと同時に目の前の透明の扉が開いた。
彼のマンションに来るのは酷く久しぶりだった。もう二度と来ない場所だと思っていた。
だけど話をするのにここが一番都合がいいのだと分かったのだ。だってここには彼を傷付けるものは何もない。
エレベーターで最上階まで上がる。彼の部屋の玄関まで来て再度インターホンを鳴らそうとするとそれよりも早く扉が手前に開いた。
と、
「ここまで何で来た?」
「……」
顔を合わせて一言目がそれなのか。扉から顔を覗かせた彼の言葉に面喰うのは私の番だった。
「タクシーです」
「あ、そう。ならいいんだけど……で、なに?」
「……部屋に入れてほしいです」
「……」
白シャツというラフな格好の彼には似合わない険しい表情を浮かべた彼。表情からして私のことを厄介に思っていることが見て分かる。
なるほど、早乙女さんはいつもこんな気持ちだったのか。
「……はあ、帰れって言っても聞かなそうだね、その調子じゃ」
「はい」
「言っておきけど俺誤魔化すよ、何を言われても」
「はい、それでいいです」
それでいいから。私がそう望めば、社長は諦めた様子で玄関の扉を開けて私を中へ招き入れた。
部屋に脚を踏み入れると背後で扉が重たく閉まる音がする。
それと同時に、
「っ……」
私は彼の頭に手を伸ばした。