花を愛でる。
それでも、
「……花はどうしてそこまで他人の為に頑張れるの? 俺はただの君の上司で、君を雇ってるだけなのに」
「……」
「花、前は仕事とプライベートは分けるって話してたよね。思いっきり俺のプライベートにまで仕事のこと持ち込んできているように見えるんだけど」
あぁ、彼はもう私のことを引き離しにかかっている。
「なんで俺自身に関わってくる?」
でも、その答えはずっと胸の中にある。
「貴方の秘書だからです」
「……」
「社長が何かに迷っているなら私も一緒に迷って答えを探します。社長が決めたことであればそれについていきます。貴方をサポートするのが私の仕事だから」
子供の頃から「誰かを支える職に就きたい」という漠然とした夢を抱えていた。
それは不特定多数の誰かではなく、自分と対になるような、そんな大きな存在を。
私が尊敬できる人で、互いを信頼し合い、そして上を目指して歩ける人。
「(あ、そうか……)」
この人が、そうなのか。
「社長は一人じゃないですよ」
「っ……」
意識せずに口から出た言葉に、彼が今日一番驚いた表情を見せた。
その瞬間、彼が何も話さなくてもスッと気持ちが自分の中に落ちてくる。
私は漸く今、この人の根底にある感情を漸く理解できた。
この人は一人でいる癖に一人が嫌いなんだ。誰かが離れていくのが怖くて、誰かを傷付けるのが嫌で。
ずっと臆病な自分を心の中に飼っている。
「はあ、今それを言うのは狡くない?」
「え?」
自分の口元を押さえた彼が「あれ?」と不思議そうに首を傾げた。
「なんで今、俺嬉しいんだろうね」
「……」
「どう考えても今更なのに、やり直したって上手くいくとは限らない。最悪、この歳にして家を追い出されるまであるな」