花を愛でる。
私がその言葉に頷くと、彼は柔らかく目を細める。
「それでも、俺の為に闘ってくれるの?」
「っ、勿論です。女に二言はないですから」
「なにそれ、プロポーズみたいだ」
は? 何を言って……
しかし次の瞬間、彼が顔を近付けてきたと思ったら私の肩に頭を埋めた。え!?と驚きの声を上げる私に対し、彼は腰に回した手を自分の方へと抱き寄せる。
「ちょっとの間だけ、こうしてて」
「……」
戸惑いながらもそっと彼の背中に自分の両手を添える。
冷たい身体。大きいのに細くて、力を入れたら羽になって消えそうなくらい儚くて。
でも彼は今私の目の前にいる。
「本当、俺の周りにいる人ってみんな諦めが悪いね。花も、雛子も、アイツも」
「アイツ?」
「けど、そっか。一人じゃないのか、俺」
初めて会ったとき、とてもじゃないけど信用できないと思った。
仕事上の関係であったとしても、彼の人間性だけは好きになれなかった。
だから彼に抱かれることだって自分の承認欲求を満たすこと以外の感情はなかった。
だけど本当の彼に触れた瞬間、私はたまらなくなってしまったんだ。誰にでも見せている優しさが実は不器用なこと、自分のことよりも他人のことを思いやっていること。
一人が怖いことも、不自由でいることも、夢を諦めてしまったことも。私が貰ってしまった分返したい。
どうしようもなく、今。
「(この人のことが、好きだ)」
貴方でのことで一杯だ。