花を愛でる。




と、彼に言われて二週間が過ぎ去った。


「(その時っていつなの?)」


社長があまりにも普段通りだから私も普通に仕事に集中してしまったが、いつになったら動き出すのだろうか。
この間まで仕事の間を縫って彼の周辺を調べていたからか、今はだいぶ平和な日々を過ごしている。


「花―、珈琲入れたわよ」

「お母さん、ありがとう」

「今は何の勉強してるの?」


帰宅後、寝る準備を済ませてから自室で参考書と向き合っていると、部屋の明かりがついているのに気付いた母が狭き姿で現れた。
彼女から淹れたての珈琲が入ったマグカップを受け取り、「えっと」と机の上に置かれた本に目をやる。


「テーブルマナー? 花、どこか高級店にいくの?」

「まあ、社長の付き添いでいくことはあるから。覚えておいて損はないかな」

「そう、でも今日はもう遅いしそろそろ寝たら? 明日も仕事なんだし」

「うん、ありがとう。キリのいいところで終わるから」


大丈夫だよ、と言うと彼女は安心したように微笑み、「頑張ってね」と応援の一言を残し部屋を後にした。
さて、珈琲を飲んであとひと踏ん張りしよう、そう再び勉強に手を付けようとしたとき、机の上に置いてあったスマホが通知を告げる。


「え……」


通知の内容を確認した私は予想外の相手に言葉を失う。このメールアドレス、間違いない。彼だ。


【明日、仕事が終わったら俺の会社に来い】


そのメールには黛会長からの一言のみが記されていた。



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