花を愛でる。
こういう時に面白い話題を提供できるような女性であれば黛さんをもてなすこともできただろうに。
人付き合いのなさがこういう時に露呈されてしまった。一人で反省していると鞄の中に閉まっておいたスマホが鳴り、黛さんに「すみません」と断りを入れて確認する。
と、
「え?」
画面に表示されていた着信名は早乙女さんの名前だった。
社長のことでこまめに連絡を取っていたのだが、彼女から連絡が来るのはこれが初めてだった。
「早乙女さん?」
「早乙女って、遊馬さんの婚約者の?」
黛さんに「大丈夫ですよ」と言われ、私はその場で彼女からの着信に出た。
「もしもし、早乙女さん?」
≪……田崎さん、助けてください≫
「え?」
突然震えた声でそう懇願された私は戸惑いながらも「どうしたんですか?」と状況を尋ねる。
≪今私両親と一緒にいて、そうしたらそこに遊馬さんが現れて≫
「社長が?」
≪遊馬さんも何も知らされてなかったみたいなんですけど、今からうちの家族と遊馬さんの家族で顔合わせだって父に≫
言われて、と彼女が言葉を紡いでいる間に電話越しに早乙女さんのことを呼ぶ声が耳に届いた。きっと父親が彼女のことを探しているんだろう。
顔合わせということは、今から二人が結婚する段取りを決めるということだろうか。
≪わ、私まだ気持ちが固まっていないのにどうしたらいいか……≫
「分かりました。今すぐそちらに向かいますのでまずは場所を」
しかしそう私が尋ねた瞬間に早乙女さんの焦った声と共に通話がプツリと切られてしまった。
慌てて掛け直すが通話が繋がることはなく、永遠とコール音が耳元で鳴り響いている。
「大丈夫? 何があった?」
「……今から社長と早乙女さんの家族で顔合わせみたいです。今すぐに行かないと」
だけど肝心の顔合わせの会場が分からない。ホテル? それとも料亭? 都内だとしても該当する場所は沢山ある。
状況を把握した黛さんも「とりあえず出よう」と一緒に店を出てくれたが、ここからどう行動に出たらいいか二人で立ち尽くす。