花を愛でる。



すると、突然私たちの目の前に黒塗りのリムジンが止まった。
まさか……、と目を丸くしているとゆっくりと後部座席の窓が開けられる。そこから顔を覗かせたのは黛会長だった。


「兄さん? どうしてここに……」

「説明はあとだ。急いでいるんだろう?」

「っ……」


何故か事情を把握している彼の言葉に私たち二人は顔を見合わせると勢いよくリムジンに乗り込んだ。
初めて乗ったリムジンは高級そうな革シートと広さに落ち着かないが、今は乗り心地に意識を向けている場合ではない。


「ところで会長は何故ここに」

「自分の弟がどこにいるかぐらい普通は把握しているだろう」

「え、」

「そんなことより今は遊馬だろう。あいつが家を出るからって向こうが焦っているのが目に見えているな」


弱冠のブラコン発言も気になるが確かに今は社長と早乙女さんのことが重要だ。
動き出したリムジンに黛さんは「どこに向かっているんだ?」と、


「兄さん、遊馬さんがいるところが分かるのか?」

「くく、情報を精査すれば簡単だ。俺を誰だと思っている」

「(その社長に関する情報はどのルートを通って彼の元に来ているんだろうか)」


彼の秘書としては見逃せない問題ではあるがこの時ばかりは彼の社長への執着具合に感謝するしかない。


「(もし二人の結婚が正式に決まってしまったら、彼が家を出ることは叶わなくなる)」


それどころか、これからずっと向坂家の家の縛りを受けることになる。それだけは何とかして食い止めなければならない。
早乙女さんはどうだろう。彼女は今どんな気持ちであの場所にいるのか。彼女にだって彼を助けたい気持ちと同じくらい、彼を想う気持ちだってあるはずだ。

その気持ちを天秤にかけた時、彼女はどちらを選ぶのか。



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