花を愛でる。
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私が大人になれば、彼は私のことを見てくれるかもしれない。
彼と結ばれる夢だって叶うかもしれない。
それが“今”なんだって、昔の私が知ったらどう思うだろうか。
「お時間を作っていただけて嬉しいです。改めて顔合わせの時間を作っていただけるなんて」
隣に座る父は目の前の遊馬さんとその父親の前でいい顔をしようと必死に口を動かしている。
今日は家族三人揃ってご飯を食べに和食料亭に来たはずだった。しかし部屋に入るとそこには遊馬さんたちの姿があった。
遊馬さんが党首である彼のお父さんに何かを掛け合っているのは田崎さんからの報告で知っていた。その情報をどこからか入手した父は慌てて私たちの結婚を正式なものにしようとしているんだ。
お手洗いだと嘘を言って抜け出し田崎さんに連絡できたがいいが、料亭の名前や場所までは父に携帯を取り上げられて伝えられなかった。
「(どうしよう、本当に婚約が正式になってしまったら……)」
また私が彼の努力を水の泡にしてしまうかな。私の存在が彼の邪魔になってしまうのかな。
気まずくて、申し訳なくて遊馬さんの顔を見ることが出来ない。遊馬さんもそのお父さんも一言も話さないし、こちらを品定めしているような視線がいたたまれない。
「雛子は来年大学を卒業しますし、そうなればすぐにでも家庭に入ることも出来ます」
「……」
何なんだろう、この時間。話が進んでいるように見えない。だけどこの調子で婚約の話が流れてしまえばそれはそれで……