花を愛でる。



「(本当に……?)」


夢にまで見た、好きな人との結婚。それは私が望んだ通りのものではなくても、彼の隣にいられる絶対的な理由を私は手に入れることが出来る。
遊馬さんが私のことを好きじゃなくても、私の幼い頃の夢が叶うチャンスでもある。

このまま私が何も言わなければ。


「すみません」


そう、私の判断が揺らぎそうになったその時、遊馬さんの一言が父の会話を遮った。
顔を上げると先ほどまでは冷めた視線を私たちに向けていた彼が今は仄かに微笑んでいる。


「あ、す、すみません。私喋りすぎ……」

「……少し、席を外れていただいてもよろしいでしょうか? 雛子さんと二人にしてください」


突然名指しされ、一気に背筋が伸びる。父は遊馬さんの発言に「し、しかし」と食らいつこうとするが、父や母よりも先に遊馬さんのお父さんがゆっくりと席を立った。
そして黙ったまま部屋を出ていこうとする彼に両親は慌てて立ち上がり、彼を追いかけるようにして部屋から消え去った。


「……」

「……」



広い和室で遊馬さんと二人きりにされ、重い空気に押し潰されそうになるのを何とか持ちこたえる。
どうして私と二人にしたんだろう。もしかして今日のことを彼は相当怒っていて、今からその説教が始まるのではないか。


「雛子」

「は、はい!」


すみません!と口走った後で、彼は久しぶりに私のことを呼び捨てで呼んだことに気が付いた。
遊馬さんは「いい返事」と以前とは違った柔らかい態度を私へと向けていた。


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