花を愛でる。



と、


「その調子じゃ、雛子も今日のこと知らなかったんだろう」

「え……」

「俺もやっと親父と話すことが出来ると思ったけど、まさか仕組まれているとは思わなかった」


でも彼の父親の態度を見るに、強引にねじ込んだのはどう考えてもうちの父親なのは明白である。
そのことを謝ろうと頭を下げるが、彼は「顔を上げて」と、


「雛子とのことを後回しにしていた俺も悪かった。もっと早く対処しておけば、こんな状態に持ち込まれることすらなかったはずだ」

「っ……」

「誤魔化しても仕方がないからはっきり言うけど、俺は雛子と結婚するつもりはないよ。それに今家と揉めている俺との繋がりなんて持たない方がそっちの家の為だと思うけど」

「……揉めている?」

「雛子だって、そう感じていたんじゃないか?」


親が勝手に決めたとはいえ、婚約者がいながらもいろんな女性と遊んでいると噂は私の耳にも入っていた。
だけど遊馬さんは私と違って大人だから、大人の付き合いがあるんだと自分を納得させながらも、本当は私のことを遠ざけようとしていたことをちゃんと理解していた。

だけど私は彼のことを軽蔑することは出来なかった。彼が本当は優しくて慈悲深い人間であることを、過去の出来事から痛いぐらい知っていたから。


「それでも雛子は俺と結婚したい?」


彼がこうしてちゃんと目を見て質問を投げかけてくれるのは私が彼の婚約者になる前の頃以来だろう。
自分の中で対立している感情に息が詰まる。必至の想いで気持ちを吐き出すと、その声は私も驚くほどに震えていた。


「し、したいです……だって、私はずっと遊馬さんのことを……」

「……」

「……お慕い、していますから」


この気持ちに嘘はない。彼のことが好きで、彼のことばかり考えて、彼との結婚に夢を見てきた。
そんな長年の夢が叶うならもし遊馬さんの夢が叶わなくたって……でも……


でも、どうして私は……


「(こんなに悲しいんだろう……)」


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