花を愛でる。
父はきっと私のことを「向坂家と繋がりを持てる道具」としか見ていない。パーティーで私が迷子になって、遊馬さんに保護された時からずっと。
遊馬さんに見合う女性になるために、父は私に様々な習い事をさせた。その先々で私が酷い点数を取れば、彼は私を侮辱し、「女であること以外に価値がないやつだ」と罵った。
私が勇気を出して将来は絵を描く仕事に就きたいと話した時だって、「そんなものは必要ない」の一点張りで、進む大学も彼に無理矢理決められた。だけど私はそんな父親が怖くて逆らうことも出来なかった。
今だってそうだ、私は結局彼の言う通りに動こうとしている。
遊馬さんと結婚出来る嬉しさより、彼の夢を妨げてしまう悲しさより、何よりも父の言うことに従うことしか出来ない自分が虚しくて悔しい。
「幸せです……遊馬さんと結婚できて……」
「……雛子はそれでいいの?」
「っ……」
「もし俺と結婚したとして、後悔はしない?」
だって、もし彼と結婚出来なかったら父はきっと私に失望するだろう。更に家での私の扱いが酷いものになるのが決まっている。
だから私は遊馬さんに縋りつくことしか出来ないのだ。
テーブルの下でスカートを汗ばんだ両手でぎゅっと掴む。
「後悔……しません……」
「……」
「……なんて、嘘です」
その手の上に、ぽたりと水滴が垂れた。
「雛子……?」
「本当は嫌なんです。私が貴方の縛りになるのも、父の言うことを聞くのも。遊馬さんのことを自由にさせたいし、私だってなりたい。ずっとこのままなんて嫌だ」
「……」
「こんな状態で遊馬さんと結婚したって、私は……」
嬉しくない。
そう口にした言葉が自分の胸にすっと沁み込んでいく。
誰からも縛られず人を好きになりたい。夢を叶えたい。それが生まれる家によってどうしてこんなにも困難なものになってしまうんだろう。
遊馬さんのことを見ていると不安になる。だって彼は未来の私だ。家からの縛りに藻掻く自分を見ているようだった。