花を愛でる。




確かに今日会社に来てから社員たちの様子が何処か騒がしかった。社長のことで頭が一杯になっていたせいで、その変化に気付かずにここまで来てしまったけれど。
呆然としている私に篠田くんは「何も知らないのか?」と、


「じゃあ改めて正式な発表があるとか? というか今日は社長どこに行ってるんだ?」

「……」

「って、おい! 田崎―?」


篠田くんの言葉すら頭に入ってこない私はそのまま彼をスルーして秘書課へと向かう。
社長が結婚して会社を辞める。別に私は彼と付き合いたいだとか考えていなかったけど、もし彼が会社を辞め、新しく会社を立ち上げるとなった時、てっきり彼についていけるものだと考えていた。

だけど今私は彼から何も聞いていない。


「(考えたくないけど……でも今の感じからすると彼は一人でこの会社を去ろうとしている)」



もしかして私に会場を押さえるように言ったのは、今日に結婚会見を開くために?
そんなに大事な準備なのであれば私に事前に知らせてくれても。

篠田くんに社長のことを聞いてから、頭を過るのは彼の結婚のことばかり。
なるべく考えないようにと社内で事務作業に生を出し、お昼休みも返上し働いていると周りの社員から心配されて差し入れの珈琲を頂いてしまった。

今日中にもしかすると社長から連絡があるかもしれないと勝手にスマホを気にしていたが、結局定時が過ぎるまで彼からの連絡は一度もなく日が暮れた。


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