花を愛でる。



「(はあ、なんだかんだ仕事に身が入らなかったな……)」


そろそろ社長の方でも何かが行われているはずだ。それに私が会場を押さえたのだから場所は分かっているし、私が今から行ったとしても何ら問題はないんじゃないだろうか。

するとそれまで静かだったスマホが震え始める。瞬きをするよりも早く手に取り確認する。


「社長?」


まるで私が仕事を終えたのを見計らったかのようなタイミングで掛かってきた着信を不可解に感じながらもその電話に出る。


≪もしもし? あ、花?≫

「そうですが、今一体どこで何をして……」

≪それはこっちの台詞なんだけど。こっちはもう始まってるよ?≫

「始まってる?」


始まっているって、一体何が? 頭に疑問符が浮かんでいる私の返答に彼は「あれ?」と、


≪俺言ってなかったっけ? あー、だから花来ていないのか≫

「先ほどから何の話をされているのか、全く理解が追いつかないのですが」

≪まあいいか。多分来たら分かると思うし、今からそっちに車回すから直ぐに来てよ≫

「は、はあ……」


一年ほどこの人の秘書をしている私だが、今この瞬間が最も彼のことが分からない。
すると電話先から彼の名前を呼ぶ声が微かに耳に届き、それに彼が反応する。


≪それじゃあ待っているよ。あとでね≫

「あ、ちょっと。しゃちょ……」


そう私が呼び掛ける前に切られてしまった通話に、スマホの画面を見つめて立ち尽くす。
篠田くんから聞いたことを尋ねようと思ったのに。

だけどきっと彼のところに行けばゆっくり話も出来るはず。そうとなると早く準備をしないと。
私は慌ててデスクの上を片付けると鞄を手にして秘書課を後にした。


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