花を愛でる。



急に黙り込んだ早乙女さんに呼び掛けると彼女は「ごめんなさい!」と、


「あ、あの、直ぐに遊馬さんのところに行きたいと思うんですけど、少しお時間いただけますでしょうか?」

「え?」

「私、田崎さんには本当に感謝していて。田崎さんがいなかったらきっと遊馬さんはずっと家の縛りを受けたまま動けなくなっていたと思います」


それは違う。最初に早乙女さんが動いて、黛会長たちも彼のことを気に掛けていたから。
私は途中からそのことに感化されただけで、大した力になっていなかった。

社長は早乙女さんの存在を凄く大事に思っていた。それは確かに伝わってきて、見えない絆で結ばれた二人を見ていると私の居場所なんてどこにもないのだと悟ってしまったのだ。


「私分かったんです。今までずっと遊馬さんのことで一杯になってて自分の立場を分かっていませんでした。でも遊馬さんが前を向いてくれたから、私も自分がやりたかったことを思い出すことが出来たんです」

「……」

「お力添え、本当にありがとうございました。私も、自分の為に選択することが出来ました!」

「せん、たく?」


“選択”、何故かそのフレーズを彼女から聞いた瞬間、懐かしい記憶が一瞬蘇った。


『最後は自分がどの選択肢を選ぶかが大事なんだ。この先後悔しないために』


何故、あの人の声が頭に浮かんだ?


「田崎さん?」

「っ、すみません。私の方こそありがとうございました。社長のこと、少し探してみます」

「はい、分かりました。私も見掛けたらご連絡しますね」


それでは、とホテルの廊下で早乙女さんと別れた私は会場である大広間に脚を進める。
するとその会場入り口に立てられていた看板には「退任」の文字が見えた。

この大規模なパーティーが一体何の為のものなのか、徐々に分かってきた。

するとまた絶妙なタイミングでスマホに着信が入る。確認する前からきっと彼からだと確信していた。


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