花を愛でる。
「もしもし」
≪着いた?≫
言葉少なく、そう語りかけてきた彼に「はい」と返事をする。
≪そう、じゃあここで問題。俺は今どこにいるでしょうか?≫
「……会場にいないということでしょうか?」
≪どうだろう。探してみたら?≫
「……」
こんなタイミングでかくれんぼなんて、彼は相当物好きである。もう慣れたが。
耳元でくすくすと笑う彼に「分かりました」と、
「必ず見つけ出しますので動かずに待っていてください」
≪ふーん、男前だね。それじゃあ俺は花を待っている間、話したいことでも考えておくかな≫
「……」
彼からの通話を切ると私はふうと息を吐き、一度気持ちを落ち着かせる。
もうここまで来たらどうでもいい。彼が誰と結婚するだとか、会社を辞めてこの先どうするつもりなのかとか。
何があっても彼の傍にいる。そう強い気持ちを私が持っていればそれでいい。
「(それが私の選択だ……)」
後悔しない、二度目の選択。
一度目の選択はあの日、私が秘書の夢を諦めようとしていたときだった。