花を愛でる。



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大学一年生の秋、国公立大学に入学した私はシングルマザーで私を育ててくれた母を少しでも楽をさせるため、安定した職に就くことだけを頭に入れて勉学に励んでいた。
しかし頭の隅で昔テレビの番組で見た秘書の仕事への憧れは捨てられずにいた。

そんな私の転機となったのが友人の代わりに参加したとある講演会。
消えつつある日本の伝統工芸品を保護する活動を行っている団体のある講演、丁度受けている講義のレポート制作にも関わる内容である為に、彼女の代わりに参加を決めた。

大学終わりにその講演が行われるというホールにやってきたが良いが、講義が伸びたせいで開演ギリギリの時刻に着いてしまった。


「(座席はもう決まってるんだ。結構人も入ってる……)」


自分の座席に向かうと通路側の席で簡単に座ることが出来て安心した。
講演が始まる前にメモが取れる体制を整えておかないと。鞄の中から筆記用具などを撮り出していると不意に隣から声を掛けられた。


「大学生?」

「え?」


顔を上げて横を見ると、二つ隣の席の男性に話しかけられていた。


「あ、はい」

「そう、珍しいなって思って。若い子がこういうの参加するの」


そうなのか?と辺りを見渡すと確かに私の周りには年配の方や教員のような人しか座っておらず、10代の女性はパッと見ただけでも私だけのようだ。
しかしそれを言ったらこの人だって若い部類に入るだろうに。

すると彼は「急に話しかけてごめんね。気にしないで」と彼は前を向く。それと同時に講演会が始まった。
ステージに一人の男性が現れ、モニターを使いながら今の伝統工芸品の状況とそれが作られるまでの工程、それに懸ける人たちの想い。それらを映像で見ながら感じたことをメモしていく。

これまではあまり伝統工芸品などは素人が手を出してはいけないものだと思っていたけれど、こうして見ると意外と日常の近くにあるものだ。
このまま後継者問題が増えて日本から消えてしまったら、きっと価値あるものが減ってしまうはず。

講演が終わると簡単に内容を纏めて鞄からクリアファイルを取り出す。レポート以外のことでも凄く勉強になる内容だったな。私も帰ってもう少し詳しく調べてみよう。
席を立ちホールのエントランスへと向かう。すると慌ただしい足音が背後から耳に届き、「なんだ?」と振り返る。


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