花を愛でる。



「家の事情、か」


目の前の男性が小さくそう呟いた。一体私は何を話しているんだろうか。
後悔の念を抱えていると、彼は「なるほど」と軽く頷き爽やかな笑顔を浮かべた。


「いくら?」

「は……」

「その秘書課程とやらの授業料、俺が負担してあげよう」

「なっ……」


何を言っているんだ、この人は。初対面の人に突然お金を払うと言っているのか?
何故そんなことが口に出来るのか、私は改めて彼の容姿や服装に目を向ける。

よく見ると腕に付けている時計や腰のベルトなど、身に着けているもの全て高価そうなものばかりだ。
まさか自分に余裕があるからお金に困っている学生に手を貸したいという変わった趣味をしている人なのかもしれない。一見優しそうな人にも見えたが、ひとまず早くこの人から離れないと。


「あの、結構です。貴方に支払っていただく義理はないですし」

「でも使えるものは使った方がよくない?」

「ですが、自分の夢は人に叶えていただくものではないと思っているので」

「……」


ちょっと風変わりな人に会った。それだけでいい。世界には私の理解が及ばない人種が沢山いるのだ。
さっさと退散しようとしている私に、黙り込んでいた彼がゆっくりと口を開いた。


「そうだね、その意見には俺も賛成だ」

「え?」

「無礼なことを言ったの許してほしい。悪気があったわけじゃないだ」


今度は何だ、と彼の態度の変わりようを不審に思っていると、次に発せられた彼の言葉に私の意識が奪われる。


「自分の夢は他人に叶えてもらうものじゃない。だからこそ、自分で出来る限りの最善策を講じなければいけない」

「……」

「最後は自分がどの選択肢を選ぶかが大事なんだ。この先後悔しないために」


自分がどの選択肢を選ぶのか。後悔をしないために。


「(選択と後悔、か……)」


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