花を愛でる。
エピローグ
一年後。
「はい、株式会社A&Tホールディングスですが」
≪あ? お前誰だ≫
「……」
また貴方ですか、そう言えば電話先の黛会長は「なんだ、田崎か」と呆れた声が耳に届いた。
≪まだその会社、お前と遊馬しか社員がいないのか。大丈夫なのか?≫
「私が経理や事務を担当しているので特に問題ありません。というか、この話何度目なんですか」
≪ふん、アイツが俺の電話に出ないから仕方がなくこっちに電話を掛けてやっているんじゃないか。どうせ仕事がなくて暇しているんだろう≫
まだデスクが二つしか存在していない広々としたオフィスで一人、PCと向かい合っていた私は彼の態度に深く溜息を吐く。
この一年、毎日のように私たちの元に連絡してくる黛会長こそ実は暇なんじゃないかと思うときがたまにある。
残念ながら社長が今外に出ている間に事務業務を終わらせておきたいので、早く彼との通話を切り上げたいところなのだが。
≪そろそろ俺にも新居の場所を教えてもいいんじゃないか? 俺がわざわざ引っ越しの祝いに行ってやろうと考えているんだぞ≫
「いえ、結構です。お気持ちだけで」
≪お前、少し遊馬に似てきたな……≫
似てきた、自分では分からないが社長のことをよく知っている彼が言うのであれば確かなのかもしれない。
だがそれは黛会長をあしらう態度だけだと思うが。
「(社長もきっと黛会長の存在には感謝しているはずだけど、あの人も素直じゃないからな……)」
だけどどことなく黛会長への彼の態度は優しくなっている。それは今の会社を設立して直ぐの頃は黛会長が私たち二人でも出来る案件を投げてくれていたから。
彼曰く、随分と前から社長の為に自分の会社には関係のない、伝統工芸の方面にも手を伸ばしていたらしい。
彼は初めから社長が今の仕事を始めることを何年も前から知っていたのだ。
その恩もあってか、社長と黛会長の間には今までは感じられなかった信頼関係が生まれた。
どちらもお互いの熱意に応えた結果だと言える。
いいな、こういう関係に私もなりたい。
≪それで、今アイツはどこにいるんだ?≫
「……あの人は、」