花を愛でる。
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家のインターホンが鳴るとシンクの近くに置いてあったタオルで手の水滴を取り、エントランス前の様子を見に行く。
モニターに映っている彼の姿にハッと息を呑むと、通話ボタンに指を置き簡単に会話を済ませる。
「(煮込み時間はあと10分。『先にご飯を食べる』と言っていたから彼が部屋着に着替えるのも入れてタイミングは完璧だ)」
私は一つに縛っていた髪を解き、そして鏡の前で簡単ではあるが見た目を整える。
そうしてから玄関先へ向かうと丁度また部屋のベルが鳴り響いた。
私が玄関扉を奥に押すと、そんな私の視界に映ったのは大きな白いバラの花束だった。
「おかえりなさ……なんですか、これは」
「ただいま、花」
何故かバラの花束と共にご帰宅なさった社長は目の前にある花に驚きを隠せない私の肩に腕を回し、自然と距離を近付けてくる。
「今日は花が俺を貰ってくれた日から丁度半年記念日だからプレゼントと思って」
「はあ、というかそれ先月も祝いましたよね。その前の月も」
「花と過ごす毎日が俺にとって特別だから」
一年前よりも口が達者になっている彼に流されまいと気を引き締めると、
「この家の主であるならいちいちインターホンを鳴らす必要もないかと思うのですが」
「うーん、でも折角だし可愛い奥さんに出迎えてほしいからさ」
「……」
「そんなことより花、俺に言うことあるでしょう」
この人に真正面から勝とうなんて百年早かったのかもしれない。
目の前にある様々な問題は一先ず頭の隅に置き、最初から彼に言おうとしていた一言を口にする。
「一週間の出張、お疲れさまでした。遊馬さん」
「うん、ありがとう。花」