花を愛でる。
彼と仕事を取るようになって暫く、前の部署で篠田くんから聞いていた話はあながち間違いではなかったことを知る。
「今晩? うん、空いてるよ。丁度俺からも電話かけようと思っていたところ」
スケジュール確認の為に彼の元を訪れると聞こえてきたのは誰かと電話している声だった。
しかしその声色は明らかに仕事関係の電話でないことは確かだった。私の姿が目に入るなり、「じゃあまたあとで」と甘い口調で通話相手に告げて通話を終えた。
「お待たせ、ちょっと野暮用でね」
「野暮用、ですか」
仕事相手のプライベートに口を出すことはしないが、しかし気になるのは彼は昨日も同じような電話を私の前でしていたのだ。
昨日も今日も違う女性相手と彼は会う。仕事で他会社に打ち合わせに出た時も、会社に帰る途中にタクシーから降りたと思ったらその後に会っていたのは綺麗な女性だった。
「(女性方面はだらしないとは聞いていたけれど……)」
これは予想以上だな。
「どうしたの、田崎さん。さっきの電話相手が気になる?」
「全く、そのようなことはないので」
「つれないな。田崎さんとも今度食事したいから時間空けておいてね」
「考えておきます」
勿論それは却下だけど。
暫くして「それで俺に何か?」と聞かれ、通常通り仕事のスケジュー調整について話し始めた。
プライベートの面だと尊敬できるところは一つも見当たらない。企業の一社長がこれで大丈夫なのかと側にいて不安に思ったことも度々あった。
しかし仕事の成果で言うと私が心配するのが烏滸がましいほど、頭の回転が速い人であることを知る。
それは私が彼の秘書について二ヶ月が経った頃、同時に二つの会社から契約が切られるという事態に陥ったことがあった。
どちらも大手の会社であったこともあり、社員の中には経営状況における不安の声が上がっていたことも私は覚えている。
『大丈夫か、あの会社からの支援が尽きるとなると……』
『流石に本社の助けが必要になるんじゃないか』
会社の不満は代表である彼の不満に直結する。彼がまだ若く上に立つものとしての経験が浅いから、結局親の七光りで代表としては仕事が出来ないから。
しかし私が知る限り、そんな社員からの声を跳ね返すほど彼は多忙を極めていた。