花を愛でる。



シャワーを浴び終わると髪を乾かし、鞄の中からメイクポーチを取り出して薄く化粧をする。鏡に映るやつれた顔の自分を見ると朝から何度目かの溜息が漏れ出た。
いくらまだ20代と言っても28歳にもなれば自分の顔に老いを感じることは少なくはない。顔のシミを隠すように化粧をし、身なりを整えると脱衣所を後にしてリビングへと向かう。

時計とスマートフォン、鞄の中に手帳が入っていること確認すると玄関へと脚を進める。
その途中、一夜を共にした寝室の前を通り、その脚を止めた。

朝が弱い彼のことだ。まだ眠っているに違いない。しかしもう少しで起きないと彼も仕事に遅れる時間だろう。
何故起こさなかったんだと後から訴えられるのも癪だ、仕方がない。もう開けることはないと思っていた寝室の扉を開き、中の様子を伺う。

まだ広いベッドの上に一つ山が出来ているのが目に入る。
音を立てずに近付くと毛布に包まっていた男の肩を軽く揺すった。


「あの、起きてください。私もう行きますけど」


揺すった衝動で毛布の間から男の顔が露わになる。透けるような白い肌と長い睫毛に思わず後退った。
この人、本当に私よりも年上なのだろうか。


「ん……花? もう行くの?」

「おはようございます、じゃあ行きますね」

「ええ、早……」


待ってよ、と毛布から伸びてきた腕が私の腰に絡み付く。これが恋人であるなら愛おしく思えるのだろうが、残念ながら彼は私のとってそのような存在ではない。
否、私は彼にとってそのような存在ではない、が正しい。


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