花を愛でる。
彼とは大学三回生の夏から付き合い始め、会社に就職し半年経った頃に別れを告げた。社会人になりお互いにプライベートの時間が割けなくなったことで自然と気持ちが冷めてしまっていた。
数年ぶりにあった彼は以前よりも大人びたように見えた。それもそのはず、彼も私と一緒で28歳。もう直ぐ30代も見えてきた。
付き合っていた時によく会っていた喫茶店で待ち合わせた私たちは簡単にお互いの近況を語り合ったのち、一時間ほどして店を出た。
その後、意味もなく街中をブラブラし会話もなくなってきたところで、気付けばホテルの部屋にいた。
「社長秘書ってどんな仕事してんの?」
感情はないなりに思いのほか激しくなってしまった行為を終えた後、ベッドに横になりながら天井を見上げていた彼が尋ねてきた。
「突然なに?」
「いやー、さっき聞いたときは詳しく聞いた方がいいのかなって。ていうか花って秘書になりたがってたっけ?」
「……」
そういえばそんな話一度もしたことなかったなと思い出しながら「そんなことないよ」と彼の隣でブラのホックを止めた。
「社長のスケジュール調整したり会食の場所を予約したり、お客さんが来たらお茶くみしたり」
「ふーん、意外と雑用っぽいことしてるんだな」
確かに実際の業務を知らない人からしたら私のしていることは雑用と感じるのかもしれない。
きっとこれは必死になって伝えても伝わらないやつだと察し、彼の言葉に言い返すことはしなかった。