花を愛でる。
彼が私の前にあったカクテルのグラスを指で弾く。これはさっきの彼は「甘くて飲みやすくて女性におすすめ」だと言っていたけど。
あぁ、そういうことか。そこで私は漸く自分がどんな状態にいたのかを理解した。そしてそんな私を彼が助けてくれたことも。
「その、ありがとうございました。あとすみません、情けないところを見せてしまって」
「意外で驚いたけど新鮮でよかったよ。田崎さん、普段物静かで隙が無いと思っていたから」
「……社長は今日お仕事だったんですか」
「いや、家の集まりでね」
家、ということは向坂グループの集まりか。想像しただけで胃がやられてしまいそうだ。
彼はカウンターにいるスタッフに頼んで私のカクテルを引かせると自分の分の飲み物を注文した。
「何か飲む? 度数高いのはお勧めしないけど」
「……」
「どうした?」
「いえ、少し思うところがあったのでいっそのことお酒に酔おうとしていたのは本当だったので」
さっき飲んだカクテルのアルコールが周り始めたのかもしれない。自然と私の口は軽くなり、よく回るようになった。
「それは構わないけど、でも飲むんならこんなところに来ない方がいい。今の田崎さんは俺から見ても危なっかしいから」
「危なっかしいとは?」
「直ぐに漬け込んでお持ち帰りされそう」
「……」
そうか、私……心のどこかでそんなことも望んでいたのかもしれない。
元彼の言葉で傷付いた自分を癒せるのは、また違う男性なのだと、そう思い込んでいたのかもしれない。