花を愛でる。
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休日明けの月曜日の朝、普段通り出社し秘書課のロッカーで鏡越しに見た目を整えながら金曜の華やかな夜に想いを馳せる。
あの夜、彼が私を着飾ってくれたが今鏡に映っているのは薄化粧に髪を後ろできつく一つに縛っている30手前の女性。会社にいるせいか自然と眉間に皺が寄る。
身に着けているものも顔の華やかさも違いすぎて、あの夜のことが泡沫の夢だったかのように感じられる。
浮かれていたわけではないが、自分の感情が高揚していたのは確かなのだろう。
気を引き締めよう、改めて髪をきつく括るとロッカーの扉を閉じて仕事場に戻る。
すると私の姿を見た瞬間に若い女性社員が慌てたように話しかけてきた。
「あの、田崎さん。少し困ったことがありまして」
「はい?」
「先ほど『社長に会いたい』とお客様が来られて、アポを取られていないようだったので田崎さんに連絡を入れようとしたのですが……」
彼女が言うには「自分は彼に関わりのある人間だ」の一点張りで対応に困り、思わずそのお客様を社長室に通してしまったとのことだった。
信じられないことだ。どこの会社の人間かも分からない人物を社内に通してしまうとは、それも社長室に。
彼女の対応について深く注意を促したかったが待たせているお客様のことを考え短めに抑え、速足で社長室へと向かう。
彼はまだ会社には来ていないはず。しかし圧にやられて社内に通してしまうって、一体そのお客様とはどのような人物なのだろうか。
社長室の扉の前に辿り着いた私は一度心を落ち着かせると二回ノックし、「失礼します」と部屋の中へ入った。
「お待たせしてしまい申し訳ございません。向坂はまだ会社に出社して……」
いなくて、と顔を上げると部屋の中で待っていた人物を見て思わず口が開いたままで固まってしまう。
社長室の応接用のソファーに座っていたその“少女”が私の存在に気付くとそっと腰を上げる。
「貴方は?」
鈴が鳴るような、凛とした声にハッとすると「申し訳ございません」と、
「ご紹介が遅れました、私向坂の秘書を務めてます田崎と申します」
「秘書の方、だったんですね」
ソファーから離れ、私に近付いた彼女に目を惹き付けられる。
陶器のような滑らかで白い肌、日本人離れした高い鼻筋、人形みたく大きな瞳に潤いのある小さな唇。
そして低い等身は私が想像したいた人物とは酷くかけ離れていた。
「(中学生?)」
どうして中学生のような子供がこんなところに……
「初めまして、秘書さん」
しかし幼い表情で微笑んだ少女の口から飛び出した言葉は、更に私の想像の範疇を超えていた。
「遊馬さんの婚約者です。彼に会いに来ました」