花を愛でる。
花を愛でる。2
花を滑る。
今思えば、金曜日のパーティーが終わった後も私の災難は続いていた。
彼と一緒に入った風呂で無駄に体力を消費した私は少しだけ仮眠を取った社長とスイートルームを後にした。
電車で家に帰ろうとしていると彼が「車呼ぶけど?」と声を掛けてくる。
「帰るついでに家まで送ってあげるけどどうする?」
「……」
正直な話、昨日のパーティーの疲れが取れていない状態で電車に揺られるのは辛いと考えていたところだった。
この人とこれ以上時間を共有したくはないところだが、時間とお金を節約する意味でも彼が家に帰るついでというならば言葉に甘えよう。
ホテルを出ると既にエントランスに彼が呼んだと思われる外車が停車していた。
後部座席に乗り込むと昨日と同じ運転手が運転席に座りハンドルを握っていた。この人は彼専属の運転手なのだと気付いたのは彼の秘書について一ヵ月が経った頃だった。
対面式のシートになっている広々とした後部座席に彼と向かい合うように座ると車がゆっくりと走り出した。
今から帰宅することを母に連絡をすると、前から視線を感じ顔を上げる。何故か穏やかな表情で私のことを見つめている社長と目が合い、一瞬気まずい空気が流れる。
「なんですか?」
「いや、家の人大丈夫?」
「はい、帰れないことは昨日伝えておきましたので」
なぜ突然私の家事情を心配するのだろうか。彼の思惑を不審に思っていると彼は「何でもないよ」と意味深に微笑んだ。
車に乗っているだけでどこまでも絵になる人だな。絵画にして美術館に飾られていても不思議じゃない。
ううん、流石にそれは変か。美術館の壁に彼の肖像画が飾られている光景を想像しては表情には出さずに笑ってしまった。