花を愛でる。
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どうして、どうしてこんな事態に。
「ごめんなさい。こんなものしかなくて、お口に合うといいのだけど」
心配そうな顔を浮かべながら彼の前のテーブルの上に置かれたのはこの家でよく出されるカステラだった。
一瞬不思議そうな表情をした社長だったが母を不安にさせないために直ぐに「ありがとうございます」と微笑む。
「(この人、カステラ食べたことがあるんだろうか……)」
そんな疑問を持って隣の席に座る彼を見守っていると、社長はカステラを手で掴むとそのまま口に含もうとしていたので慌てて止めた。
「社長、まずは底の紙を剥がしてください」
「ああ、そうなんだ。見たことはあるんだけど口にしたことはなくてね」
全く、と彼の代わりにカステラの紙を剥がし、「どうぞ」と差し出す。久し振りに彼の世間知らずなところを見た気がする。やはりこの人大財閥の御曹司なんだな。
一口含んだ彼は暫く咀嚼し、そして柔らかい笑みを母へ向けた。
「仄かに甘くて美味しいです。底に付いてるザラメが良いアクセントになってる」
「普段カステラより美味しいもの食べてるでしょう?」
「そんなことないよ。折角だし実家の方に取り寄せてみようかな」
向坂家の食卓にカステラが並ぶ光景を想像しては頭を横に振る。駄目だ、全く想像が付かない。
すると私たちのやり取りを見つめていた母から穏やかな眼差しを向けられていることに気付く。
「向坂さん、本当に素敵な方。カステラを食べる仕草も絵になるわぁ」
「はは、花のお母さん面白いね」
「ミーハーなんですよ。社長のこと話していないから、下手なこと言わないでくださいね」
むしろこのまま一生会わせないまま終わらせるつもりだったのだけど。
何とか母が彼の発言に戸惑う前に社長を帰らせないと。その為の策を練るために、珈琲を飲みながら思考を巡らせ考える。
と、
「そ、それで二人はどのような関係で?」
「ぶっ……」
まさか伏兵は身内にいたとは。照れながらも謎に話題をぶっこんできた母親に言葉を失う。
「どのような……そうですね、今までも何人か秘書はいたんですが花さんは特に頼りにしています。真面目ですし、仕事への向き合い方は僕も見習わないとって思っています」
「(この人、意外と普通のことも言えるんだな……)」
「その反面、少し怒りやすいところもありますがそこも可愛らしいなって思いますね」
「ぶっ……」