花を愛でる。



私の右頬に彼の手が触れる。すると突然頬の肉を指で掴まれた。


「ちょ、ほ!?」

「ははは、思ってたより柔らかい」


手加減をしているからか痛みはないが、見た目がおかしなことになっているのが想像できる。
離してください!と強く訴えると彼は潔く私の頬から手を離した。

と、


「やっぱり家にいるといつもより表情が柔らかいね」

「……そう、ですか?」

「会社でも今の感じでいたら『鉄の女』なんて言われないのに」


そう言って微笑を浮かべた彼に誰にでも言っていることだと自分に言い聞かせる。現に今日も彼は別の女性と一晩過ごしてきた男なのだ。
それじゃあと何事もなかったかのように部屋を出ていった社長はそのままリビングにいる母と少しだけ会話を交わすと玄関へ向かった。

そして暫くして私が「鉄の女」と呼ばれていることを知っている事実を突きつけられ、思わずその場で頭を抱えてしゃがみこんだ。



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