花を愛でる。
早期に社長が気付いたお陰で契約が切れかけていた会社との繋がりも修復できた。
というより彼が気にしているのはそこではないのだろう。この問題が起こった際、彼に最初から相談していればここまで大ごとにはならなかった。
若いから、自分よりも歳が下だから。そんな理由で未だに彼がこの会社の代表であることを認めていない層が存在する事実。
「お待たせしました」
淹れたての珈琲をお持ちすると彼は「ありがとう」と微笑む。先ほどと違って彼の纏う空気が柔らかいものへと変化している。
伏し目がちになる彼の表情を確認するといつもよりも顔色が悪いように見える。
「お疲れですか?」
「ちょっとね、来週からスケジュール詰めてもらえる? 一度それぞれの事業の進行状況を把握しておかないとね」
「分かりました。会議室も押さえておきます」
「しかし社長は仕事しなくていいとか言われているのに全然だよね」
ね?、と同意を求められた私は首を横に振りたかったがこれ以上彼の機嫌を損ねたくないので「そうですね」と特に感情なく頷いた。
するとその返事が彼の地雷を踏んだのか、カップを置いた彼の視線が私の方へ向いた。
と、
「はぁー、なんか疲れちゃったな。田崎さん、癒してよ」
「は?」
突然なんだと思うと腰を引き寄せられ、「な!」と声を上げる。
「セクハラで訴えますよ!」
「ははは、それは流石にヤバい」
ごめんねと腕が離れたのに安堵するや否や、彼の視線が意味深な動きを見せる。
「でも“花”は俺を訴えないよね」
「っ……」