花を愛でる。
花を秘める。
早乙女さんが会社を訪れた日から、社長が私を自分の部屋に呼び出すことは一度もなかった。
「(私にとってはありがたい話なのだけど……)」
普段通り会社に出社した私はロッカールームを出て秘書課へ向かう。
社長に早乙女さんという婚約者がいると知った手前、彼との関係を続けるわけにもいかないし、彼がそのことを黙っていたことにも密かに腹が立っている。
もし私との関係が彼女にバレて婚約が破棄になったらどうするのか。
それ以前に早乙女さんは彼があの歳でいろんな女性と遊び惚けていることに対してどのような考えを持っているのだろう。
もしかしたら彼女はまだ若いし、彼がそういう人間だということも知らないのでは。
気が付くと社長とは仕事以外での会話がほとんどなくなった。向こうも今までの態度が嘘だったように私に無駄話をする機会も減った。
どこか彼に事情を詮索しようとした私に対して牽制を取っているみたいでこちら側としては不服な面もあるのだが。
でも仕方がない、誰にも触れてほしくない部分は持ち合わせている。それは彼にとって早乙女さんの存在だったというだけ。
「(婚約者か……)」
結婚するのか、あの二人。