花を愛でる。
「先日は本当にありがとうございました。お陰様で母も元気になって今日から仕事に復帰しました」
「そっか、大事にならなくてよかった」
「はい……」
そう会話を終わらせてしまった私に社長はくすっと微笑んだ。
「で? まだ何か言いたいことがある?」
「……」
この人は私の考えていることなんて手に取るように分かるんだろうな。
昔から表情が変わらなくて何を考えているのか分からないって言われてきた私だけど、何故だかこの人の前では丸裸にされているような気分になる。
それが酷く腹立たしい。
「あの時社長が一緒にいなかったら、私はずっと自分のことを責め続けていました」
「……」
「今回は命に別状なかったけれど次は違うかもしれない。あの時車を降りるという判断も後悔に繋がったかもしれない。そう考えると一秒だって立ち止まってられないんだなと思って」
自分の仕事があるのに病院まで車に回してくれたこと、社会人としては間違っているのかもしれないがあの時に私にとってその計らいは心強く感じた。
彼のお陰で自分のことも顧みることが出来た。私が彼を支えなければいけないのに、反対に支えられていた。
「なので、改めてお礼をさせてほしいんですが、」
「律儀だなー」
「こういうことはちゃんとしておきたいんです。母も社長にお礼がしたいと言っていますし」
と流れで母のことも口にしてしまったけど私と母の二人で出来る最大限のお礼なんて限界があるし、この人のことを満足させられないような気もするが。
しかし社長は母のことを聞いて「そっか」と尚更嬉しそうに顔を綻ばせた。
「それじゃあまた今度一緒に食事でも誘おうかな。それでいい?」
「え……私と母と三人でですか?」
「そう、この間のカステラのお礼もあるしね。あれから通販で取り寄せて実家に送り付けたんだけど、親父が大層気に入ってね。親子で味覚が似てるんだろうね」
「はあ……」