花を愛でる。
花を踏む。
休日に朝は比較的に早く起きて朝食を作るのが日課になった。
休みの日ぐらい母に楽をさせたい気持ちがあるのと、この歳にして料理を母に任せてばかりだと今後離れて暮らすとなったら私が困ると思ったからだ。
「(よし、お味噌汁は出来た。あとは食器を並べて……)」
細かい作業は苦手ではないので料理も慣れれば直ぐに身に付きそうだ。
台所で忙しなくしていると寝室から母が「おはよ~」と大きな欠伸をしながらリビングに現れた。
「ん~、いい匂い! なんのお味噌汁?」
「じゃがいもとキャベツ」
「ふふ、美味しそう」
先日高熱を出して道端で倒れた母だったがすっかり元気になったらしく、料理する私を見てご機嫌な様子で近付いてくる。
「急に料理をし出すなんてどうしたのかしら? 誰かに食べさせるためのお勉強?」
「違うよ、自分の為だから」
「隠さなくたっていいのに。花がもし花嫁修業するときはお母さん張り切っちゃうから」
「……」
何処かに嫁ぐ予定はこの先も全くないが。まあ母が楽しそうならそれでいいけど。
もう出来るから座ってて、と彼女に促し、出来上がった料理をお皿に盛りつけていく。
すると突然背後で「わあ!」と母の大きな声が聞こえたので咄嗟に振り返った。
「素敵なグラス~、どうしたのこれ?」
「っ……」
そう言って彼女が手にしていたのは誕生日プレゼントとして社長が送ってくれた青色のグラス。
昨日の夜、少しお酒を飲むときに使ったので今日の朝洗って乾いたところを食器棚に直そうとしてテーブルに置き忘れていたのだった。
炊けた白米をよそおうとしていた私は慌ててしゃもじを手放して母の元へと向かう。
「こんなの前から家にあったかしら」
「そ、それは自分で買ったの、誕生日に」
「誕生日に? そう、それにしても素敵な色使いね。お母さんも同じやつ欲しいわ~」
同じやつって、これは社長の手作りだし全く同じものが作れるわけがない。これ以上母に言及されないようにと「そうだね、探しておくよ」と話題を切り上げた。
と、
「そういえば社長さん」
「っ、え?」
「出張って、来週だったわよね?」
彼女の口から飛び出した彼の存在にグラスの送り主がバレたのではないかと一瞬思ったが、来週に彼と二人で行く泊りがけの大阪出張のこと思い出したようだった。
一先ず安心だと胸を撫で下ろし「そうだよ」と、
「私がいないところで無理しないでね」
「分かってるわよ~。その日は友達と家でパーティーするんだから」
「うん、そうして」
「だから花も楽しんでくるのよ」
お母さん、出張は遊びじゃないんだよ。そんなツッコミも馬鹿馬鹿しくなった。