花を愛でる。
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そんなことが会った翌週の半ば、早朝の駅内でなかなか現れない社長に私は徐々に焦りと苛立ちを覚えていた。
「(あの人朝起きるの苦手だし、こんな朝早くから新幹線で向かうって聞いたときは本気かなって思ったけど)」
本当に遅刻だったらどうしよう、と待ち合わせ時間が迫りくる腕時計の針を眺める。
と、
「花、お待たせ」
不意に名前を呼ばれて顔を上げるとネイビーのチェスターコートを身に纏った彼が颯爽と手を振りながら駆け寄ってくるのが目に入った。
「間に合った。セーフ」
「ほぼほぼアウトです。寝坊かと思いましたが」
「許してよ、早起き苦手なんだ。こんな早朝に服着て歩いているのを褒めてほしいくらい」
全く、と眼鏡のブリッジを指で押し上げた私があることに気が付くと彼の首元に手を伸ばす。
「すみません、少しネクタイが……」
「っ……」
きっと慌てて準備をしてきたんだろう。今から出張だというのにネクタイが緩んでいたら示しが付かない。
彼のネクタイを締め直し「大丈夫ですよ」と離れたが、目に入ったのは少し拍子抜けした彼の顔だった。
「社長?」
「……いや、何か今の花、新婚さんみたいだなって」
「なっ……なに言ってるんですか!? というか名前!」
「あれ、ごめんごめん。朝だから気が抜けちゃってるのかな?」
本当にこの人は、冗談で言っていいことと悪いことがあるが。
行きましょう!と照れたのを隠すように先陣を切って改札口へ向かって行く。
と、その時。
「……?」
「……どうかした?」
「い、いえ、今なんか視線を……」
感じたような、しかし辺りを見渡すが見覚えるある人物は見当たらなかった。
気のせいかと思いこむと改めて彼と改札へと向かう。