丸重城の人々～前編～

｢柚希ちゃんは、結婚してるんだよね？｣
｢え？はい｣
｢そっか…｣
｢え？あの……｣
｢あ、ごめんね…初めて会った時に、可愛いなぁって思ってて｣
｢えーと｣
｢困らせるつもりないんだ。ごめんね…｣
｢私こそなんか、すみません｣
｢もうバイト終わりだよね？｣
｢はい。目標金額になったので……｣
｢よかった、最後に話せて！｣
｢ありがとうございました。皆さんのおかげで、不安なく仕事できました！｣
｢よかった！｣
お互い微笑みあう。
｢……っつ、痛っ！｣
｢どうした？柚希ちゃん？｣
｢いや、目にゴミが……｣
｢大丈夫？ちょっと見せて？｣
三島が目を覗き込む。
そしてフッと吹き掛けると、ゴミが取れた。
｢取れたよ？｣
｢あ、はい。そうみたい…ありがとうございました！
もうすぐそこなので、あとは大丈夫です。
ほんとありがとうございました！｣
ペコッと頭を下げて、かけていく柚希だった。

｢ただいま、あれ？この靴…｣
｢おかえり、柚｣
｢え？大翔？仕事は？｣
｢ん？今日早く終わったんだ！最近忙しかったから、今日は早く終わらせたの｣
｢そう。お疲れ様！｣
｢どこ行ってたの？｣
｢え？｣
｢誰と、どこに、行ってた？｣

大翔の目に、表情に、声に、いつもの柔らかさも、優しさもなかった。