丸重城の人々～前編～

｢え？で、でもちょっと辛くなってきたんだよね…｣
落ち着いてはいるが、柚希にとってもう限界だった。
｢いいじゃん！ちょっと位……｣
｢だったら、大翔のカフェにしない？そこだったら何かあれば……｣
｢えー。いいとこがあるの！｣
｢え？｣

そこは最近評判のカフェだった。夜はバーにもなるらしく、昼からお酒が飲めるのだ。
｢いいとこじゃない？｣
｢うん…｣
確かに雰囲気はいい。
でも柚希はかなり震えていた。
さっきから角にいる客が柚希達を見て、なにやら話しているからだ。
｢ごめん、なっちゃん！やっぱ怖いの……私帰るね｣
｢いいけど、一人で帰れるの？今お昼時だよ？人多いよ？｣
｢大翔に電話するから…ごめんね……お金は…後から渡すから…はぁはぁ…｣
｢奢るって言ったでしょ？だからいらないよ｣
息切れまでしてきている。
柚希は逃げるようにその店を出た。

｢ふん！少し痛い目見ればいいのよ！｣
夏姫はただ、このまま一人で家に帰して、怖がらせたかっただけだった。

店の外で大翔に電話する、柚希。
プルルルル……
｢早く出て…大翔……｣
『柚？どうした？』
｢大翔！助けて！怖いの……｣
『柚！？どうしたの？』
｢今、外に…いて……はぁはぁ…｣
『外？まさか一人で！？なんでだよ？』
｢なっちゃんの…買い物…はぁはぁ……｣
『柚！？もしもし？』

そのまま、柚希は倒れてしまった。